ガガイモ(蘿藦、学名: Metaplexis japonica)はキョウチクトウ科ガガイモ属のつる性多年草である。中国名は蘿藦。種子や葉は薬用に、若い芽は食用になる。
名称
古名をカガミまたはカガミグサという。夏の季語。いずれの名も語源には諸説あり、イモというのは根ではなくて実の形によるともいう。高橋 (2003) は割れた実の内側が鏡のように光るのでカガミイモ(鏡芋、輝美芋)の名がつき、これが訛ってガガイモとなったとしている。
平安初期の『本草和名』で中国語名の蘿藦がガガイモを表す漢字表記としてあてられ、やがて蘿藦の表記が用いられるようになった。
日本神話では、スクナビコナの神が天之蘿摩船(あまのかがみのふね)に乗ってきたといい、これはガガイモの実を2つに割った小さな舟のこと。
地方により、ガンガラ、ゴンガラ、トウノキなどととばれている。
ガガイモの学名は牧野 (1940) などで Metaplexis japonica と紹介されてきたが、Khanum et al. (2016) でMetaplexis属などはイケマ属(Cynanchum)に統合するのが妥当とする学説が出され、ガガイモに関しては同論文480頁で提案された Cynanchum rostellatum という新学名がキュー植物園からも認められている。
分布と生育環境
日本の北海道・本州・四国・九州のほか、朝鮮半島、中国の東アジア一帯に分布する。低地から低山帯に分布する。各地の山野に自生し、日当たりのよいの草原や道端、藪、河川敷、林縁などに見られる。日当たりと排水がよく、肥えた土地を好む性質があり群生する。
形態・生態
つる性の多年草で、長く太い地下茎があり、白い線状で長く伸びると、その先に茎を出す。地下茎はちぎれても、地下茎の一部分から容易に繁殖できる。地下茎は有毒。つるは右巻き(Z巻き)である。他物に絡んで伸び、長さは2メートル (m) ほどになる。葉は対生し、長さ5 - 10センチメートル (cm) のやや長い心臓形で全縁、葉脈が目立ち、葉身の表面は濃い緑色、裏面は白緑色をしている。葉や茎を切ると白い乳液が出る。
夏に、葉腋から長い花柄を出した先に集散花序がつき、淡紫色から白色の花が10 - 20個ほど咲く。花冠は5深裂して星型に反り返り、花冠の内側に毛が密生する。果実は大型の紡錘形の袋果で、長さは8 - 10センチメートル (cm) 、表面にイボがあり、熟すと割れてボート形になり、中から白い毛の生えた種子が出る。
ヘクソカズラに姿がやや似ており、比べると数は少ないが、横に伸びた根から芽を出して旺盛に繁殖するため、一度生えると雑草化する。
利用
かつては種子の毛を綿の代用や朱肉に用いた。種子は漢方で蘿摩子(らまし)と呼んで強壮薬に用いることもある。若芽などはゆでて食べられる(多量に食べると有害ともいう)。
生薬
種子と葉は生薬になり、初秋に実を採って天日乾燥して種子を取り出し、葉は夏に採取して陰干しして調製される。乾燥させた種子は蘿摩子(らまし)と称されていて、強精、止血に、また葉は解毒、腫れ物に薬効があるとして用いられる。民間療法では、強精目的に羅摩子の乾燥粉末1日量2 - 3グラムを1日2回服用する用法が知られる。切り傷の止血には種子の白毛をつけるとよいとされ、腫れ物には葉の粉末をクチナシの粉末(サンシシ末)と一緒に酢で練り合わせて、湿布する方法が知られている。
食用
若芽は食用になり、暖地では5 - 7月、寒冷地では6 - 7月ごろに採取する。若芽を茹でて水にさらし、おひたし、ごま和え、クルミ和え、白和え、マヨネーズ和えなどの和え物、酢の物、煮物、汁の実などにする。生の若芽を用いて天ぷらやバター炒めにもできる。初秋(9 - 10月)にオクラに似た若い果実を採取して、天ぷらや漬物にする。ただし、根茎には毒成分が含まれているので、採取は禁物である。
諸言語における呼称
日本では以下のような方言名が見られる。
- イガイモ: 志摩国
- イモ: 山口県(大島郡)
- カガイモ: 山口県(都濃郡、吉敷郡、大津郡)
- ガカイモ: 山口県(美祢郡)
- カガミ: 熊本県玉名郡
- カガライモ: 山口県大島郡
- カガラビ: 加賀国
- ガガラビ: 加賀国
- カゴイモ: 山口県豊浦郡
- ガンガラビ: 新潟県中蒲原郡
- クサパンヤ: 江戸
- クサワタ: 静岡県賀茂郡
- ゴアミ: 長野県北安曇郡
- ゴアメ: 長野県北安曇郡
- コアンベ: 長野県北安曇郡
- コーガミ: 仙台
- ゴーガミ: 仙台
- コーガメ: 駿河国
- ゴーガメ: 駿河国
- コーガモ: 遠江国
- ゴガチョ: 秋田県仙北郡
- ゴガッチョー: 秋田県
- コガネ: 木曾
- ゴガベッチョ: 秋田県(平鹿郡、由利郡)
- コガミ: 木曾、宮城県(仙台、登米郡)、長野県更級郡
- ゴガミ: 仙台
- ゴガミズル: 仙台
- コガメショ: 秋田県由利郡
- コカライ: 出羽国米沢
- コガラビ: 出羽国
- ゴガラビ: 出羽国
- コガラミ: 山形県庄内
- ゴガラミ: 山形県(新庄市、酒田市)
- コンガラ: 長野県(下水内郡)
- ゴンガラ: 長野県(下水内郡)
- ショーカイモ: 山口県美祢郡
- ショーガイモ: 山口県美祢郡
- チガイモ: 出羽国
- ナガイモ: 山口県(熊毛郡、玖珂郡、都濃郡)
- ハンシャ: 伊予国
- ハンジャ: 伊予国
- ハンヤ: 佐渡
- パンヤ: 木曾、三重県(宇治山田市、伊勢)、三宅島
- ヤマイモ: 山口県(玖珂郡、厚狭郡、豊浦郡、美祢郡、阿武郡)
- ラマソー: 江戸、京都
脚注
注釈
出典
参考文献
日本語:
- 牧野, 富太郎『牧野日本植物圖鑑』北隆館、1940年、204頁。http://www.hokuryukan-ns.co.jp/makino/index.php?no1=P204。
- 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、33頁。ISBN 4-416-49618-4。
- 八坂書房 編『日本植物方言集成』八坂書房、2001年、125-6頁。ISBN 4-89694-470-4。
- 高野昭人監修 世界文化社編『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、107頁。ISBN 4-418-06111-8。
- 高橋, 勝雄『山溪名前図鑑 野草の名前 夏』山と溪谷社、2003年、84頁。ISBN 978-4-635-07015-7。
- 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、76頁。ISBN 4-05-401881-5。
- 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、93頁。ISBN 978-4-09-208303-5。
英語:
- Govaerts, R., Goyder, D., Leeuwenberg, A. (2019). World Checklist of Apocynaceae. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; https://wcsp.science.kew.org/namedetail.do?name_id=520433 Retrieved 7 October 2021
関連文献
英語:
- Khanum, Rizwana; Surveswaran, Siddharthan; Meve, Ulrich; Liede-Schumann, Sigrid (2016). “Cynanchum (Apocynaceae: Asclepiadoideae): A pantropical Asclepiadoid genus revisited”. Taxon 65 (3): 467-486. doi:10.12705/653.3.Cynanchum'' (Apocynaceae: Asclepiadoideae): A pantropical Asclepiadoid genus revisited&rft.jtitle=Taxon&rft.aulast=Khanum&rft.aufirst=Rizwana&rft.au=Khanum, Rizwana&rft.au=Surveswaran, Siddharthan&rft.au=Meve, Ulrich&rft.au=Liede-Schumann, Sigrid&rft.date=2016&rft.volume=65&rft.issue=3&rft.pages=467-486&rft_id=info:doi/10.12705/653.3&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:ガガイモ">
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